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研究紹介

昆虫の種分化機構

1つの種が2つ以上に分かれることを種分化と言います.地球上にはたくさんの生物種がいますが,この多様性を生み出してきた原動力が種分化です.種分化が繰り返されてきたことは明らかなのですが,そのメカニズムとプロセスはわからないことだらけです.

例えば,種分化が完了すれば別種であり,互いに「交配できない」からこそ別種であり続けられるのですが,もともとは「交配できていた」同種です.そして,「交配できなくなる」ような進化は,まだ互いに交配できる時に生じることになります.しかし,最初に「交配できなくなった」個体は,一体どの個体と交配して子孫を残したのでしょうか?

 

つまり,種分化の過程では「交配できない」とか「子孫が生存できない」といった形質が進化する必要があり,こうした進化がどのようにして進むのかは興味深い問題です.​

具体的には,リーフマイナー leaf miner という葉の中に潜って生活する昆虫類を用いて,餌とする植物が変わったときや,分布域が海や山脈で隔てられた場合などに注目し,集団間の遺伝的交流を止めるバリアとしての強さや働き方と,その結果生じる集団間の遺伝的分化に注目しながら研究を行なっています.

複合適応形質の進化機構

生物の進化には,複数の形質が進化して初めて適応的となる場合がしばしばみられます.例えば我々が研究している植食性昆虫では,メス親の卵を産む好みと,幼虫が植物を食べて成長できる能力の2つが揃って初めて新たな寄主植物を利用することが可能となります.

 

ほとんどの昆虫で,メスの好み(産卵選好性)と幼虫の寄主植物に対する生育適性はそれぞれ別の遺伝基盤を持つことが知られています.ということは,寄主転換が起こるには産卵選好性と幼虫の生育適性のそれぞれを決めている遺伝子に同じ植物に適応した変異が生じる必要があります.

 

これは一見とても起こりそうには思えませんが,昆虫がその進化の歴史の中で寄主転換を何度も起こしてきたことは間違いありません.よって,寄主転換のような複合的な進化を引き起こすメカニズムがあるはずです.

 

我々の研究室では,クルミホソガという飼育が容易なリーフマイナーの実験系を用いて,順遺伝学,逆遺伝学的手法により産卵選好性と幼虫の生育適性を司る遺伝子を特定し,複合適応形質をその遺伝基盤から解明するとともに,集団遺伝学,量的遺伝学の手法を用いてその進化プロセスに迫りたいと考えています

昆虫の植物操作能

いわゆる「虫こぶ insect gall」の研究です.ですが,研究室で培ってきたリーフマイナー の飼育技術を応用して,世界でもほとんど例がない「虫こぶ形成昆虫の累代飼育」を行なっています.どんな生き物でもそうですが,

実際に飼ってみると,観察しているだけではわからないことがどんどん見つかってきてともて面白いです.

また,これまでの虫こぶ研究はそのほとんどが昆虫の研究者によって進められてきましたが,我々のプロジェクトでは,学内外の植物の研究者とも積極的に共同研究を進めることで,虫こぶという興味深い異種操作能の進化機構と分子機構,そして生態学的な相互作用を包括的に理解することを目指しています.

​鱗翅目の体系学

様々な実験で用いているホソガ科を中心に,新種記載などの分類学や系統学に関わる研究も行っています.教員の本来の専門はホソガ科の蛾類なのですが,その他の小型蛾類や,時には蝶類の分類学,系統学なども共同研究を通じて行っています.

​植食性昆虫と天敵との相互作用

鱗翅目のリーフマイナー と一緒にその天敵である寄生蜂も飼育しながら,様々な実験を行なっています.元々は,目的のリーフマイナー の成虫が欲しいのに天敵である寄生蜂ばっかり出てきて純粋にとても困っていたのですが,ある時「これだけ採れるのなら研究してみよう」と思って初めてみたテーマです.研究してみると大変面白く,

かつ,採集サンプルから蛾が出てきても蜂が出てきても仕事になるので大変効率的です.気付けば,ラボの学生の半数近くが寄生蜂に関連した研究を行っており,改めて植食性昆虫と寄生蜂の強い結びつきを実感させられます.

翅多型の遺伝基盤

セスジアメンボを用いて,翅多型の遺伝基盤と,翅多型性が種内の遺伝構造に与える影響を調べています.

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